カラヴァッジョ展@国立西洋美術館
こんにちは。
先日、若冲展のあとに、国立西洋美術館へ行きました。ついに、ずっと楽しみにしていたカラヴァッジョ展を訪問したのです。
若冲が混みすぎて、カラヴァッジョに流れてきた人も何人かいたみたいで、
そんな気持ちでカラヴァッジョを見るなんてやめてくれとか思いながら、ついに入館。
土曜だし、それなりに混んでいたものの、若冲に比べたらガラガラと思えるほど。
やっぱり絵画は落ち着いて見るのが一番ですね。
カラヴァッジョの絵には圧倒的なパワーがありました。その雰囲気を生み出しているのには、彼の徹底したリアリズムがありますが、実はほとんど下書きをしないことでも有名です。
これが、彼が死んだあとに描かれた肖像画
ほんとに画家かというくらい、眼光が鋭いです。。。なんと、お札にもなっています。
カラヴァッジョという名前は、彼が育った村、カラヴァッジョ村から拝借し、18世紀の終わりにローマで活動、頭角を現しました。
幼いころにペストが流行り、若いころに身近な人が次々と他界、死と貧困が隣り合わせだったカラヴァッジョの育った環境は、やはり彼の作品に影響を与えているように思えます。
ローマで活動を始めた当初は、デルモンテ枢機卿がパトロンとしてカラヴァッジョの活動を支えていました。
しかし、生来の荒々しい気性からなのか、生活は次第に乱れていきます。多くの暴力沙汰を引き起こすようになった彼は、ついには人を殺めることになってしまいます。
-カラヴァッジョを見つけたものは誰でも、彼を殺すことを許可する
そう死刑宣告を受けた彼は逃亡生活を送るようになります。
そして、カラヴァッジョ村で大きな力を所持していたコロンナ家の屋敷に逃げ込み、逃亡資金として、有名な絵画を描きあげます。
『エマオの晩餐』です。逃亡中に描かれたというだけあって、かなり素早い筆致で描かれているのが特徴。息を飲むようなリアリティですよね。。。
そして、今回の展覧会の一番の目玉は、エマオの晩餐と同時期に描かれたものの、400年間見つからずにいた作品です。
その前に、今回気にいった作品もいくつか紹介していきます。
★★★★★★
『女占い師』<1597年>
カラヴァッジョは、近代写実主義の先駆者と言われています。その所以は、この絵のように当時のローマでは珍しいありのままの人々の何気ない生活、風俗を描いたから。
この絵は、ロマの女が占いをするフリをしてお金持ちの男から指輪を盗もうとしている場面です。
この手の風俗画は、カラヴァッジョがベルギーやオランダから影響を受けた産物だそう。
また、背景を描くと絵の中心がぶれるからと無駄を省いたこのような構図は、ローマでカラヴァッジョが流行らせたものだそうです。
『トカゲに噛まれる少年』<1596-97年頃>
これは、「痛み」という知覚の反応を絵画に表したものです。少年の右手の中指がトカゲに噛まれています。驚いた時の少年の顔が、一瞬の時を捉えたかのように描かれています。
こうした人間の一瞬の感情を描くのはバロック様式の特徴。ルネサンスのような静謐で優美な表現よりも、生の人間らしい表現に注目が集まっていたようです。
『メドゥーサ』<1597-98年頃>
ギリシャ神話に登場するゴルゴン三姉妹のひとり、メドゥーサです。もともとは美しい女性だったのですが、
髪の毛をヘビに変えられ、その目を見たものは石になってしまうという化け物に変わってしまいました。
そんなメドゥーサは、女神アテナの盾を持った英雄ペルセウスに退治され、生首は盾に張りつけられアテナに献上されました。
この絵は、実際に盾に描かれていて、神話の盾がまさに目の前に現れたかのような、そんな幻想を抱かせてくれるすばらしい作品になっています。
メドゥーサの顔にもすごみがあり、ほんとに石にされてしまいそう。どこに立っていても睨まれているようです。
『ナルキッソス』<1599年頃>
これもギリシャ神話から。美の女神の怒りをかい、自分しか愛せなくなってしまう呪いをかけられたナルキッソスという美少年です。
水面に映る自分の姿に恋をし、やがて憔悴しきって死んでしまいます。
以前紹介したウォーターハウスの作品ではナルキッソスにないがしろにされたエコーも描かれていましたが、今回はナルキッソスだけ。
女占い師と同じように、ナルキッソスの悲哀にだけ焦点があてられていて、よりドラマチックな印象を受けます。
さらにその効果を高めているのが、光の効果。スポットライトのような強烈に差し込む光が、演劇や舞台を見ているかのような印象を与えています。
キアロスクーロ(明暗対比)という技法らしく、カラヴァッジョはロンバルディアで学び、ローマで昇華させたとのこと。
かのレンブラントもこの技法に影響を受けているそう。
『法悦のマグダラのマリア』
これが、コロンナ家でエマオの晩餐と同時期に描かれ、後、400年間行方不明だったと言われてる作品。世界初公開ということで話題となっています。
モチーフは娼婦でありながらキリストと出会って改悛したマグダラのマリアという女性。
他の画家が改悛した女性の悔やんだ表情を美しく、色っぽく描いているのとは違い、カラヴァッジョは祈りの果てに神と繋がったエクスタシーの瞬間を捉えています。半開きの目と青ざめた唇からは、生と死の境をダイレクトに感じさせてくれます。
膨らんだお腹は、病気か、はたまた飲まず食わずの祈りの果ての栄養失調かとも言われているそうです。
2014年に見つかったこの作品は、手の巧みな陰影、柔らかな描写がカラヴァッジョの特徴と一致するとして、真筆と分かったそう。
★★★★★★
逃亡したカラヴァッジョは、教会の恩赦を得ようとマルタ島で騎士になるが、そこでも暴力沙汰を起こし、結局はローマに帰ることなく野垂れ死んでしまいます。
マグダラのマリアは、4年間の逃亡生活中最後まで大事に持っていた作品だそうです。
ここに表されている改悛は、カラヴァッジョの殺人の罪に対する気持ちの表れなのか、はたまた恩赦を得るために教皇へ献上する為の絵だったのか、その真相は、カラヴァッジョが倒れた海辺の波と一緒にどこかににさらわれ消えてしまったというわけです。
カラヴァッジョの描く闇は祈りの空間と深い関係があるのかも知れないと言われています。
キリスト教徒が祈る場所、教会って暗いイメージがありますよね。
カラヴァッジョは、闇に沈む教会、生と死を繋ぐ曖昧な空間である教会を常に意識して描いていたのかもしれません。
そして、まさに自分が絵画に心惹かれるのはここなんだなと思いました。生と死の境界があいまいな絵画という存在、美術館という空間が、なんとも言えない不思議な気持ちにさせてくれるのです。
おわり